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おもいで

小さい頃にとてもお世話になった女の人がいた。彼女は「おとな」でわたしは小学生だった。彼女は美人でわたしにとても優しかった。彼女はわたしのお家に良く遊びに来ていた。わたしも彼女の家によく遊びに行ってどうぶつの森をやったりした。キラキラのスライムを一緒に作ったりもした。彼女はわたしの母がいない間住み込んでご飯を作ってくれたりした。お弁当にはいつも小さなお手紙が入っていてそれが嬉しかった。彼女はわたしに夢みたいな女の子のことを教えてくれた。例えば彼女はとても可愛がっているテディベアがいた。彼女のテディベアは生きていた。彼女からするとテディベアは全部生きていた。というか生きていないテディベアなんて知らないと言った風だった。彼女のお家にホットケーキミックスがあってわたしはそれを食べたかったのだけれど彼女はそれを「お家の無い大人のひと」にあげるからごめんねと言ってたのでがまんした。ホームレスにあげていたらしい。何日か経ってテディベアからわたしのお家にお手紙とホットケーキミックスが届いた。テディベアから手紙を貰うのは生まれて初めてだった。とても温かい気持ちになった。彼女とは疎遠になってしまったのだけれどそれは「おとなの事情」だった。彼女はよくわたしのお家に来てわたしと遊んだ後母にお話をしながら泣いた。とても泣いた。彼女がティッシュペーパーで柔らかな涙を拭きながら子どものように「おとこのひと」の話をしているのを横で見ていた。また彼女は仕事も何もしていない様だった。けれども立派なお家に住んでいたしいつも綺麗だった。暫くしてからある大人の人が母に彼女は嘘つきだったと話していた。彼女を信じると苦しむと言われていた。母はその時仲良くしていた大人の人を信頼したのだと思う。最後は重い病気だと母に話して姿を消した。彼女は確かに少し危ない人だったのかもしれない。彼女は確かに本当のことはあまり話さなかった。彼女のテディベアは命はない。けれどわたしは彼女は嘘をつくつもりでテディベアが生きている風に振舞っていたのでは無いと知っている。今でも彼女のテディベアは生きていると思う。彼女は「おとな」とは少し違う生き物だったんだとも思う。彼女が本当のことばかり話さない人でよかったとわたしはこころから思っている。おとなのする本当の話ではなくて夢の中に生きている様な人でよかったなと思う。わたしは彼女のお家に置いてきてしまったどうぶつの森のじぶんのお部屋がたまにしんぱいになる。きっとゴキブリだらけになってしまっている。彼女と会わなくなってからわたしの夢のわたしもとまってしまっている。現実を生きている。もう少しで「おとな」になる。いまでもテディベアからの手紙は大切にしている。