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犬が蛇だった

大きなものたちがスルスルと自分の中から消えていく離れていく私が築き上げてきたものはどれもすごく不明瞭なものたちだった。夢で車の中に白い蛇が現れてあれは確かに私の飼っている犬だったんだけれど とにかく姿は蛇で 私の周りに巻き付いたあとスルスルと離れていってしまった。少し寂しくてそれと似ているなって思った。何に向かっていたのか突然わからなくなる。物事は自分が知らないところで進んでいる。傾きながら遠回りでもたどり着くと思っていた先が崩壊して目の前が真っ白な牛乳になっちゃった。誰かが前何かを牛乳で例えていて良かったのだけれど何を牛乳に例えていたのか忘れちゃったな。感覚だけは好きだった。

犬が泣き止んでくれなかったから抱きしめてじっとしていた。悲しいくらい泣き止んでくれなかった犬の頭が私の胸にもたれかかった時 小さくて生きているということを感じた。小さい頃親に夜の道を抱っこされながら帰っていた時のことを思い出した。やけにうるさい街中でも目を瞑っていて此処にいれば大丈夫だと思っていたから。その切り離された世界のおとは何もうるさくなかった。夜もおばけも何も恐れることはなかった。ひとりであるく様になってから町の雑音はうるさいと思う。きっとその中に居るから。目を瞑っては歩けないから。でもたまに駅の真ん中で一人止まって目を瞑る。ことを想像するとなんとなく戻っていける。こんなにもソワソワとした場所に自分を守る人がいるだけでこんなに安心したところになるのだという感覚を思い出す。私は記憶なんてすべて無くなってしまえば良いと何度か思っていたけれどあの時の音を思い出すたびに、匂いを思い出すたびに、思い出せることがたまらなく嬉しい。